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個人開業から医療法人化へというご相談は多い一方で、皆さんはなぜ法人化するのでしょうか?「節税になる?」「まわりの医院が法人化しているから?」本ブログでは、法人化を検討する際に事前に知っておくべきメリット・デメリットをお話しした上で、法人化が向いているケースと、逆に見送った方がよい法人化が向いていないケースについて、具体例を含めて解説します。
(1) 個人と法人で所得分散医療法人設立後、その法人と院長個人は別の人格になり、法人は院長個人(法人での役職は一般的に「理事長」)に対して給料を払うことになります。医療法人にとってその給料は経費になります(院長個人側では給与所得となります)。これにより、個人事業では院長個人に集中した利益(≒課税所得)を、院長個人と法人とに分散することができます。結果として、利益のうち(特に)高い税率が適用される部分が軽減され、それが法人側に移転することになり、個人+法人トータルの税金をより低い水準に抑えることができます。
(2) 家族に所得分散原則として、個人事業においては(青色専従者給与に該当する場合を除き)家族に給料を支給することはできません(支払うこと自体は可能ですが、所得税の必要経費になりません)。一方、医療法人化を行い家族を役員に据えればその役職に応じた額が、従業員であれば従事する仕事に見合った額が、それぞれ給料として支給できます。これにより、個人事業では院長一人に集中した利益(所得)を給料を支払うことを通じて家族間に分散されます。その結果、院長個人に適用されていた高い税率の適用部分が緩和されます。
(3)退職金の活用個人事業では、院長個人本人に対して退職金を払うことはできません。一方、医療法人は院長(理事長)の退職に際し退職金を支給することができます。その退職金は、支払い側の医療法人では損金となり、受取り側の院長個人では退職所得となるため、法人・個人ともに税金計算上有利な取り扱いを受けられます。
(4)資金調達のしやすさ法人化は、経理上の公私分別と決算書の信用力の向上、医療法による決算書開示による継続性の強化につながるため、金融機関からの信用が高まります。結果として資金調達がしやすくなります。
(5)採用強化資金調達と同様に、継続性が担保される法人の方が(個人と法人で事業の実態が変わらなくても)応募者側からの安心感が高まり、応募件数も相対的に増えるため、有利に働くことが多いのが実情です。
(6) 相続・事業承継院長個人の死亡により(後継者がいる場合でも)その経営する医院はいったん閉める形式をとります。一方、医療法人の場合、理事長変更など比較的簡単な手続きを経て、医院を継続できます。
(7)分院展開個人事業の場合、開設は1カ所のみしか認められません。一方、医療法人であれば複数の医院を経営することができます。
(1)手間とコスト増大医療法人の設立するには、都道府県や保健所、厚生局などへの手続きが必要となり、その資料の準備に相当の手間がかかります。解散についてもこれに準じて同様のことが言えます。また、これら手続きをお忙しい院長がお一人で完遂するのは難しいことから、専門家に依頼する必要があります。専門家に依頼すればその手間をかなり減らすことができますが、当然専門家報酬が発生します。
また法人設立以降は、個人医院に比べてより厳格な会計手続きが必要になります。そのため、(個人では自ら行っていたケースでも)税理士にその業務を依頼する必要性が生じ、その報酬が発生します(個人事業のころから税理士に依頼しているケースでも法人化するとその報酬は増加する傾向にあります)。
また、決算毎に行う都道府県への決算の届出義務や、毎年行う総資産の変更や2年ごとに行う理事長の変更に伴う登記手続きが発生し、これらを行政書士、司法書士に依頼すれば当然その報酬がかかります。
(2)決算等の内容の公開
既報の通り医療法人は決算の都度、都道府県等に決算内容を報告する必要があります。その報告した決算内容は閲覧が可能となり、誰でも見ようと思えば見ることができます。最近では東京都をはじめHPで閲覧が可能になっています。この点は専門家のHPでも医療法人化のデメリットとしてあげられていないことが多いので注意が必要です。
(3)小規模企業共済等が適用外
個人歯科医院の院長の多くが、引退後の資金蓄積と節税を兼ねて小規模企業共済に加入しています。これが医療法人化後は加入要件から外れることになるため、継続することができません。また、ものづくり補助金など補助金の多くが、医療法人を対象外としているものが多いため、クリニックの設備投資に補助金の活用を予定している場合は注意が必要です。
ここまで医療法人化によるメリットとデメリットを見てきましたが、実際にはどのようなケースが医療法人化に向いていて、逆にどのようなケースは向いていないのでしょうか?いくつかのケースを列挙したうえで、独断ではありますが、その理由について言及させていただきます。
法人化が向いているケース・経営者が若く、これから多くのスタッフとともに医院を拡大(増床化・分院展開)する場合
→医院拡大のために資金調達と採用がポイントになります。上記に掲げた通り、医療法人化した方がこれらをよりスムーズに行うことができます。
・経営者自身はあまり若くはないが、歯科医師の子どもが存在し、その後継者に医院を継承させたい場合
→すでに述べた通り、医院の継承を行う際、法人化した方がスムーズです。また、法人に蓄積した利益(内部留保)には相続税がかからないため、地域歯科医療の継続の観点でも優れています。
・経営者自身はあまり若くはないが、継承させてもよい勤務医が存在し、いずれその勤務医に医院を継承させようと考えている場合
→私の実感として、年齢を重ねても長く現場に立つことを希望される院長は少なくありません。後継予定の勤務医に経営者としての自覚を徐々に持たせ、院長ご自身も段階的に臨床負担を軽くしていく——こうしたお考えには、医療法人化が相性のよい選択肢です。個人開業では、開設者の交代は原則として所轄庁への手続により、どうしても“節目の日”を境に体制が変わります。一方で医療法人は開設者が法人であるため、次のような段階的な役割移行が可能です。
この分掌変更は、所轄庁への役員変更届および登記の手続きを経て行います。また、平の理事になった旧院長がさらにその平の理事を退任した場合でも、その平の理事退任後、医療法人の最高意思決定機関である社員総会の構成員である「社員」として、引き続き法人運営に関与することも可能です。※「社員」とはいわゆる“会社員”の意味ではなく、医療法人社団の構成員を指します。
法人化があまり向いていないケース・小規模・少人数で“院長の目が届く範囲”で経営したい場合→ 医療法人は、各種届出、決算書類の作成・公表、登記等の事務運用が恒常的に発生し、専門家報酬などの固定費も上振れしがちです。分院・大型投資・人員拡張の予定が乏しい小規模医院では、これらの手間とコストを診療収益で吸収しにくく、メリットが相対的に小さくなりやすいため、まずは個人のまま経営する選択が適しています。
・院長に後継者がおらず、近い将来(例えば10年以内)閉院する予定の場合
→10年以内に閉院見込みで後継者不在なら、設立・解散の手続負担と費用、残余財産の扱い制約を考慮し、法人化は非推奨となるケースが目立ちます。
医療法人化は、税金のバランスを取ることによる資金繰りの改善施策であると同時に、医院を“個人”から“組織”へ進化させることで、地域医療の担い手としての継続的な経営基盤構築の第一歩になります。短期的な目線だけではなく、院長自身の出口を見据えた長期のプランニングが重要です。医療法人化で迷った場合は、ぜひ当事務所にお問い合わせください。
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